シンフォギア考察「位相差障壁の突破について(後編)」
前回までのまとめ
・シンフォギアやエレクライトは通常の物理法則を超えた聖遺物のエネルギー、そして歌の力(音や振動)を利用した位相調律の合わせ技によって、位相差障壁を打ち破っている。
・一方、完全聖遺物やAD兵器は、通常の物理法則を超えた特殊なエネルギーで位相差障壁を突破し、直接的にノイズを攻撃している。
・では、AD兵器のエネルギー源であるライフエナジーとは、どのようなエネルギーなのか?
・本題
前回、AD兵器に使われているライフエナジーは、アニメ4期『戦姫絶唱シンフォギアAXZ』及び5期『戦姫絶唱シンフォギアXV』にて登場した“神の力”と近しいものである、と考察した所で区切らせて頂きました。
では、神の力とは何なのか。ライフエナジーとは何なのか。今回はそれらを考察していく記事となっております。まだ前回の記事を読んでいない方、或いは前回の復習をしてから読みたい方は、こちらからどうぞ。
シンフォギア考察「位相差障壁の突破について(前編)」 - エミログ
シンフォギア考察「位相差障壁の突破について(中編)」 - エミログ
長くなった考察記事も、いよいよこれがラスト。最後までどうか、お付き合い願います。
・解説:神の力とは
神の力とは、アニメ4期『戦姫絶唱シンフォギアAXZ』にて初登場した、パヴァリア巧妙結社が求めた「絶対たる力」。カストディアン(創造主)に対抗する術であり、アヌンナキ(神と呼ばれし異星種族)の力そのものと言えるエネルギーです。
73,794人の生贄の命により創造されており、サンジェルマンはこの研究にかなりの年月(おそらく約300年以上)を費やしたとされています。
AXZ第1話~2話では、南米の神性、「ヨナルデパズトーリ」の像より付与された概念によって、巨大な蛇のような怪物となった。
“神の力”そのものは、特定の指向性を持たない無色・純粋な高エネルギー体ですが、何らかの概念を付与する事で、目的を持った「兵器」へと再誕を果たします。
左はティキが神の力を纏って変化した『ディバインウェポン』、右は響が神の力で変身してしまった『破壊神ヒビキ』
シンフォギアをも圧倒する攻撃力、そして受けたダメージを並行世界に存在する同一別個体に肩代わりさせる無敵性というとても強大な能力で、装者達を苦しめました。
また、XVでラスボスとして立ちはだかったシェム・ハはアヌンナキの一人であるため、神の力を錬成する手間を挟まずに使用しています。
こちらも並行世界にダメージを肩代わりさせる他、触れた対象を構成するあらゆる物質を銀へと変換するビームなどの埒外物理を見せつけました。
神の力とライフエナジー。どちらも人間の命から得られるエネルギーですが、間に錬金術的加工を挟んでいるか否かという違いがあります。
おそらく集めた人間のライフエナジーを、より高純度なものへと錬成・昇華し、保持できる状態にしたものが“神の力”なのでしょう。
他作品で例えるなら、『ウルトラマンティガ』や『ウルトラマンダイナ』に度々出てくる「光」が一番近い存在かもしれません。ひょっとすると、ウルトラマン大好きな金子さんがオマージュした設定なのかもしれませんね。
長寿の種族であり、肉体を失っても自身を情報化して永遠を生きるなど、高次元の生命であるアヌンナキ。
その生命力から生まれるエネルギーこそが“神の力”であり、その力によって通常の物理法則を歪める現象を起こしてみせるのが『埒外物理』。
そして、アニメ本編でも語られましたが、それらを人間の手で再現し、神に比肩する事を目的とした技術こそが『錬金術』なのです。
・錬金術師の軌跡
シンフォギアで生命を燃やすシーンといえば、このシーン。
AXZ12話の名シーン。サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティによる「死灯」のシーン。
迫り来る反応兵器から人々を守る為、全てを燃やし尽くしたサンジェルマン達。
ラピスを燃やし、完全なる肉体を燃やし、己の生命全てを燃やして奇跡を起こしたあの瞬間。涙した適合者も多いでしょう。
高次元の生命であるアヌンナキ。
その生命力から生まれるエネルギーこそが“神の力”だとすれば、このシーンはまさしく、人間が神と呼ばれし高次存在に肉薄したシーンの一つです。
続いて、XV第12話のこのシーン。
これまで敵対し続け、シェム・ハによって怪物として完成させられてしまったノーブルレッドが、最期の罪滅ぼしとして大規模術式『ダイダロスエンド』を応用し、月から地球まで届く巨大な道を作ったシーンです。
最大全長38万km超の長大な三角路。ノーブルレッドの三人は力を使い果たして消滅してしまいましたが、彼女達がいなければ、装者達は地球への生還を果たせなかった事でしょう。
それから、XV最終話のこのシーン。
エルフナインの記憶領域より復活を果たしたキャロルが、自らを構成する想い出全てを焼却する事で、シェム・ハの埒外物理を押し返すことに成功した黄金錬成のシーンです。
たとえ再び消えるとしても、ようやく見つけた命題の答えを示して、誰かの為に命を手放す。
キャロルが最期に起こした奇跡は、多くの適合者の胸を打った瞬間でしたね。
北欧神話に登場する霜の巨人の名を持つ聖遺物【ベルゲルミル】。強化前の姿の時点でも、2mを軽く超える巨体だったが(画像左)、アリシアの生命力で強化され、怪獣並のサイズへと巨大化した(画像右)。
そして、XDのイベントシナリオ『双翼のシリウス』では、錬金術師アリシア・バーンスタインが自らの生命を全て使い、自律型完全聖遺物【ベルゲルミル】を成長させています。
これらは生命(ライフエナジー)を全て使って奇跡を起こした極端な例ですが、基本的に錬金術によるライフエナジーの消費量は術式の規模に比例するので、そう簡単に死ぬような事はありません。
生命力の解釈は、作品によって扱いが分かれる所ではありますが、シンフォギア作中においては「生命“を”生み出す力」ではなく「生命“が”生み出す力」となっているようです。
生きている限り湧き続けるエネルギーなので、消費が少量であればすぐに補填されます。逆に、短時間で大量に消費すれば枯渇し、無理矢理絞り出そうとすれば死に至ります。その辺りの理屈は、湧き水と同じですね。
では、このライフエナジーとは一体、果たしてどのようなエネルギーなのでしょうか?
我々オタクは、なまじオタク知識がある分、「命を削っているんだから、そこにエネルギーが生まれるのは当然だろう」と、いわゆるお約束として認識しがちな所があると、筆者は考えます。
そこに疑問を抱いて踏み込んだ時、このエネルギーの正体が見えて来るのです。
②ライフエナジーの正体
ライフエナジーとは、生体エネルギーから生成されるものだと筆者は考察します。
生体からは、光、化学、電気及び運動の各エネルギーが受容・保持・伝達・生産されています。
あの名作SF映画『マトリックス』では、「人体は120ボルトのバッテリー以上の生体電気と、25000BTU(英式熱量単位)を超える体熱を発生する」と語られており、人間の身体は生きて活動するために多くのエネルギーを生産し続けているのです。
錬金術はこれらをリソースに変換し、術式を行使しているものと思われます。(※1)
しかし、これだけではサンジェルマン達や生贄にされた人々、ノーブルレッドの3人やアリシアが消滅してしまった理由に説明がつきません。
それもそのはずです。何故なら大規模な術式では、それら生体エネルギーにあるものを上乗せしているのです。
それは身体構造や構成元素といった、自らの存在を構成する情報そのもの。
つまり、自らの全てを情報エネルギーとして変換する事で、ライフエナジーを爆発的にブーストしているというわけです。
・解説:情報エネルギーとは?
「情報をエネルギー化だなんて、いきなり突飛な事言い始めたぞ?」とお思いになった読者も居るかもしれません。
しかし、これは考察ではなく、作中で何度も描写されてきた設定です。
シンフォギアの作中世界は、情報そのものが力(エネルギー)を持ち、超自然現象を引き起こしてきました。
例を挙げると、ガングニールの『神殺し』やファラの持つ『ソードブレイカー』といった哲学兵装や、キャロルが使用した『想い出の焼却』などがそれに該当します。
情報エネルギーとは、言葉通り「情報そのものがエネルギーを持っている」という説に基いた存在です。
温度差のない空間からエネルギーを使わずに温度差を作り出し、仕事をさせることができるという概念、『マックスウェルの悪魔』で有名なので、詳しく知りたい方は方はWikipedia等で調べてみてください。
人間の認識や感情が、概念や呪いといった何らかのパワーになるのも、情報がエネルギーになっている証左です。
アインシュタインの特殊相対性理論には「E=mc²」(エネルギー=質量×光速度の2乗)という式が存在します。
この式は、結論だけをいえば質量があるモノは、必ずエネルギーを持っているという事を表した式です。
XVの用語集には、記憶、すなわち情報に質量が伴う事が記載されています(※2)
質量があるということは、この式に当てはめることが可能なので、少なくともシンフォギアの作中世界では成り立つ式だと考えられます。
この設定に準えれば、キャロルの『想い出の焼却』は、そのライフエナジーを自らの人生300年分の記憶という膨大な情報エネルギーで代用する事で、自らの身体を損なわずに圧倒的な戦闘力を生み出す術式という事になります。
身体を損なわない代わりに、自分自身を喪失するという大きな代償がありますが、最終的には神と呼ばれる存在に匹敵する程の力を発揮しました。
というわけで、この先からは『情報エネルギー』が存在する前提で考察を進めさせていただきます。
③ライフエナジーと聖遺物
人間1人のライフエナジーには、当然ながら限界があります。
神の力を錬成するのに必要としたのは73,794人。たった1人の生命だけで神と呼ばれる存在に届く事は、殆ど不可能です。
ならば生命だけでなく、血肉から骨の一片に至る全てまで。文字通り、己の存在そのものを懸けるしかありません。それでようやく、人間は聖遺物と同等のエネルギーを生み出す事が出来るのです。
AD兵器のカートリッジにされた死刑囚達がどのように死ぬのかは描写されていませんが、おそらくは死体も残らずエネルギー化した可能性が高いと思われます。
聖遺物や異端技術に頼らず位相差障壁を破るのが、どれだけ難題であるかが、これでハッキリしたことでしょう。
さて、ここまで長々と情報エネルギーについて語ってきましたが、最後に、シンフォギアに欠かせない歌の力、『フォニックゲイン』に関する考察で締め括らせて頂きます。
④フォニックゲインとは
フォニックゲインとは、歌に宿るエネルギーであり、シンフォギアを起動・運用するために使われています。また、シンフォギアのみならず、聖遺物の起動にも用いられており、電気的刺激による起動と比べて圧倒的に安定した起動を可能としています。
本編、およびXD全編を通して、フォニックゲインは情報エネルギーとして最上位のものとして位置付けられているようです。
何故、歌にはそれだけのエネルギーが宿るのでしょうか?
それは、歌に含まれる情報量が圧倒的に多いからです。
歌に含まれる情報は、以下の通りです。
- 調子(リズム)
- 旋律(メロディー)
- 音階
- 歌詞
- 感情
- 息遣い
このように、数種類の情報が互いに相乗し合うことで、「歌」は成り立っています。情報エネルギーの中でも破格の情報量です。
フォニックゲインは装者のみならず、あらゆる歌に宿ります。たとえ音痴が歌った歌でも、一定量のフォニックゲインが含まれるのです。
歌から生まれる圧倒的な情報量をエネルギー化し、増幅させた聖遺物の欠片に宿るエネルギーと共に放つ。これがシンフォギアの原理です。
エレクライトの決戦機能、『シンフォニック・ドライブ』。エレクライトをシンフォギアと合体させ、並行世界を繋げて膨大なフォニックゲインを生み出す。
アサルトデバイスギアやFG式コンバーターを追加したメックヴァラヌス、エレクライトのシンフォニック・ドライブなど、他の対ノイズ兵装を強化したのも、シンフォギアが持つ「音楽をフォニックゲインとして取り込む機能」でした。それらの例からも、フォニックゲインの有用性が読み取れます。
それそのものに攻撃力があるわけではありませんが、位相差障壁の調律から炭素転換への防御、聖遺物を起動するカンフル剤にエネルギー増幅、ライフエナジーの代用にまで転用可能な万能エネルギー。それがフォニックゲインなのです。
聖遺物の力、ライフエナジー、神の力と、ここまで様々なエネルギーを解説してきましたが、最終的には“歌の力”こそが最も安全かつ安定したエネルギー源であるという結果に行き着きました。こういう所、まさにシンフォギアですね。
それでは、そろそろまとめに入りましょう。
・まとめ
-
シンフォギアやエレクライトは通常の物理法則を超えた聖遺物のエネルギー、そして歌の力(音や振動)を利用した位相調律の合わせ技によって、位相差障壁を打ち破っている。
-
一方、完全聖遺物やAD兵器は、通常の物理法則を超えた特殊なエネルギーで位相差障壁を突破し、直接的にノイズを攻撃している。
- 特殊なエネルギーにも色々あるが、安定性、安全性を求めると、やはり歌の力(フォニックゲイン)による制御へと帰結する。
以上三点を結論とし、考察を終えさせて頂きます。
長くなりましたが、ここまで読んでくださり、まことにありがとうございました。
この考察が、皆様の創作活動のお役に立てば幸いです。
・最後に
シンフォギア作中に於いて、そもそも音楽とは、統一言語を失った人類が再び他者と繋がり、隔たりなく想いを伝える為に生み出したものだとされています。
画像は、適合者には特に勧めたいアニメNo.1、『SHOW BY ROCK!!』の最終回から。音楽の力でモンスターと戦う所や、ツッコミ不在のぶっ飛んだシーンの数々に物凄くシンフォギアを感じます。
昨今の音楽モノの作品群には「言葉よりも音楽で語る」という言葉や、「言葉に出来ないから音楽で伝える」という展開がよくありますが、それらが指しているのはまさにこの事です。
情報エネルギー云々を抜きにしても、ただ言葉で伝えるより、音楽の方が乗せられる想いは多いのです。
現代において、統一言語を取り戻した所で本当に人類が分け隔てなく繋がれるのかは、かなり疑問視される所です。先史文明と現代とでは、人々の生きる社会がまるで違います。
シンフォギアXDではXV後の物語が描かれていますが、人類は未だに変化していないようです。人類の相互理解には、これからも時間がかかる事でしょう。
だとしても、歌が人を繋げてくれるのは紛れもない事実です。これからも、人類の心から歌が消えない限り、可能性はゼロじゃない。『戦姫絶唱シンフォギア』という作品が、音楽を通じて描きたかったのは、こういった未来への希望だった。筆者は心の底からそう思っています。
そういう作品だからこそ、筆者はシンフォギアを愛している。今回の記事を書く中で再確認したこの気持ちを、これからも忘れずに筆を執っていきたいです。
※1引用元『想い出の焼却 - 用語解説 - TVアニメ「戦姫絶唱シンフォギアGX」公式サイト』
※2 引用元『キャロル・マールス・ディーンハイム / 用語解説 - TVアニメ「戦姫絶唱シンフォギアXV」公式サイト』
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